医療現場では、医療に直接たずさわる看護師や医師だけではなく、いろいろな職種のスタッフがいます。職種ごとにそれぞれの役割がありますが、それぞれが高い専門性をもって、知識や技術、経験を活かしつつ、お互いに連携や役割を補い合うことがチーム医療の特徴だと思います。チーム医療では、それぞれの役割に専念することができるので、より質が高くて安全な医療を患者様に提供することができます。

一般的な医療現場の職種には、看護師や医師、検査技師、医療事務などがあります。不妊治療では、卵子や精子をあつかう胚培養士という専門職がいて、受精の操作や胚の培養、凍結保存などをおこなっています。こういった操作はとても専門性が高く、日々積み重ねた経験や高い技術が必要です。一昔前の不妊治療では、医師が診察や処置の合間に受精や培養などの処理をしていたのですが、それでは医師が診察に専念することができません。そこで最近では、胚の操作は高い技術をもった胚培養士が担当して医師は患者様の診察に集中する、というような分業にしているクリニックが一般的になっています。
また、不妊治療では排卵誘発剤や自己注射など患者様ご自身で薬の管理や服薬をすることもあります。そういった服薬、注射の仕方などの説明は、薬についての専門性が高い薬剤師や実際に注射をすることが多い職種である看護師が説明にあたるなど、適材適所で各職種が業務を担当すると、スムーズで的確な治療を進めることができます。
胚の培養という特殊なラボ業務や、患者様ご自身が注射をするなど、不妊治療に特有な場面でチーム医療が特に必要とされることが多いと思います。

他のクリニックと比べても、特に当院ではチーム医療を重視していて、診療や治療の各場面で患者様がより分かりやすく、治療がスムーズに進むようなチーム医療の体制を整えています。
当院では各職種の役割を確実かつ最大限に発揮するために、その役割を明確に決めていて、どんな職種においても高い専門性を持たせています。
先ほどお話しした、胚の操作などは専門職の培養士が担当していますが、高い専門性というのは、そういった特別な技術を持った職種だけではありません。不妊治療にとってほぼ毎回の診察でかかせない内診やエコーは、正確な診察をすることだけではなく、患者様にとって負担が少なくスムーズに実施することが大切です。そのために、当院では診察の補助をする「アシスタント」と呼ばれる職種がいます。「アシスタント」は、内診をする医師に診療器具を手渡したり、使った器具を受け取ったりします。器具の受け渡しがスムーズにできるよう、持ち方や角度、タイミングなど細かいところまで工夫や改善を重ねていて、内診を受ける患者様をお待たせする時間を少しでも減らし、また医師が診察に集中できるように取り組んでいます。こういった取り組みは、採卵術や胚移植などすべての診療や処置も対象です。医師が検査や処置に集中することができることは、患者様にとってより良い結果、高い妊娠率につながると考えています。
こういった職種ごとの高い専門性をもった分業体制と各職種間の連携は、患者様をお迎えする受付の段階から、検査や内診、診察、説明、お薬の受け渡し、お会計にいたるすべての段階で、日々工夫や改善をしています。

当院ではさまざまな会議を頻繁に行っています。100人以上のスタッフが働くクリニックですが、全員が集まってクリニック全体の方向性を共有する会議や、体外受精に関わる成績を確認し改善点を話し合うART会議、治療がうまくいっていない患者様の方針を話し合う会議、医療安全についての改善点を話し合い報告する会議など、さまざまな職種が集まって話し合っています。
当院ではスタッフの提案力を重視しています。会議では職種や新人ベテランなど関係なくどんな立場からでも、積極的な発言や提案があって活発な議論をします。各部署の会議でそれぞれの業務の質を高め、さまざまな職種の集まる会議で職種間の連携を高めたり、他部署からの意見や提案も取り入れることで、チーム医療の質を日々高める努力をしています。
ここ最近の新しい取り組みとしては、ICT（情報通信技術）委員会を立ち上げて、電子カルテや予約、受付、会計システムの改善をしています。ICT化によって各職種の作業効率が高くなり、診療やそれぞれの業務により集中できるようになります。また、各職種の連携が以前よりもとてもスムーズになって、チーム医療の質は格段に高くなってきたと実感しています。
また、医療専門職に限らず新人さんには、新人研究会を開いて不妊治療の医学的な勉強をしてもらっています。最も難関な専門医のひとつと言われている不妊治療の専門医試験レベルの院内試験を定期的に実施していて合格点をとるまで試験を受けることで、職種にかかわらず不妊治療の医学的な知識を習得するようにしています。これによって患者様の経過を各職種が医学的にも把握することができるようになり、各職種間の連携がスムーズにかつ正確に回るようになっています。