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不妊治療保険適用後の変化
松村 哉子(培養士)
東京
第22回日本不妊カウンセリング学会学術集会
2023年5月13日
【目的】2022年4月より少子化対策や不妊治療費の負担軽減を目的に不妊治療の保険適用範囲が拡大された。そのことにより,これまで高額で経済的負担が大きい生殖補助医療(体外受精,顕微授精等)を躊躇していた患者にとっては,自己負担額が大幅に減少し,不妊治療に取り組むハードルは低くなったと考えられる。また,自由診療から保険診療に変わったことで,社会的理解が深まり,周囲の理解が得やすくなれば,不妊治療や出産を前向きに検討しやすくなるとも考えられる。当院でも,2022年4月より生殖補助医療の保険適用を開始しており,保険適用後,患者の年齢や治療成績がどのように変化したか報告する。
【方法】保険適用前の2021年と保険適用後の2022年4月以降で初診患者年齢,採卵実施件数,採卵実施者年齢,胚移植件数,胚移植実施者年齢を比較した。また,保険適用前後で採卵数,正常受精率,胚盤胞到達率,臨床妊娠率,継続妊娠率を35歳未満,35歳から39歳,40歳から42歳に分別して比較した。
【結果】初診患者の平均年齢は2021年4月~12月間で35.6歳,2022年4月~12月間で34.3歳であり保険適用後で有意に低下した(P<0.01)。年齢分布は保険適用後25-29歳で約8%増加し,43歳以上が約7%減少した (図1)。

採卵件数は2021年5月~12月間で762件,2022年5月~12月間で940件であり,同期間で比較したところ約180件増加した。2022年5月~12月間の採卵件数のうち保険適用の割合は77.3%(727件)であった。採卵実施者の平均年齢は2021年38.6歳,2022年37.4歳(保険適用患者のみの平均年齢は35.7歳)であり保険適用後有意に低下した(P<0.01)。年齢分布は保険適用後30-34歳で約7%増加し,43歳以上で約6%減少した(図2)。

また,採卵実施回数と採卵1回目の割合はそれぞれ保険適用前,平均2.3回,54.6%,適用後,平均1.9回,63.2%であった。採卵後の成績は保険適用後,35-39歳の平均採卵数で有意に増加し,35歳未満の正常受精率,胚盤胞到達率,35-39歳の胚盤胞到達率で有意に上昇し,40-42歳では保険患者のみの胚盤胞到達率で有意に上昇した(表1)。

胚移植件数は2021年5月~12月間で824件,2022年5月~12月間で1128件であり,同期間で比較したところ約300件増加した。2022年5月~12月間の胚移植件数のうち保険適用の割合は83.2%(939件)であった。胚移植実施者の平均年齢は2021年37.3歳,2022年36.6歳(保険適用患者のみの平均年齢は35.7歳)であり有意に低下した(P<0.01)。年齢分布は保険適用後30-34歳で約6%増加し,40歳以上で約5%減少した(図3)。

43歳未満での胚盤胞移植率は2021年では86.7%,保険適用後は98.6%(保険適用のみでは99.3%)であった。胚移植当たりの臨床妊娠率は35歳未満,35-39歳,40-42歳すべてで保険適用後有意に上昇し,継続妊娠率は35歳未満,40-42歳で有意に上昇した(表2)。

【考察】不妊治療の保険適用範囲拡大後,経済的な負担が少なくなり生殖補助医療へのハードルが下がったことで,若年層の初診患者,生殖補助医療希望者が増加したと考えられる。また,保険適用の回数制限を考慮し,より妊娠の可能性が高い胚盤胞移植の割合が増加したことが妊娠率向上の一因であることは明らかだが,それ以外に採卵後の治療成績や妊娠率が向上したことは,タイミング法,人工授精法から早くステップアップする患者が増え,妊娠能力の高い患者が生殖補助医療へ移行してきたことも考えられる。不妊治療の保険適用は,妊孕性の高い若い間に,また,最適のステップアップで生殖補助医療に挑めることで,より早い妊娠に繋げられることが分かった。しかし,生殖補助医療の保険適用には,年齢や回数制限があり,そこからこぼれ落ちた患者へのサポートが今後の大きな課題となってくることは否めない。
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