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 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が「PMOS」へ―病名変更の理由をご存じですか?

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2026.6.29

2026年5月、世界的な合意により、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は「Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome(PMOS)」へ名称変更されることが発表されました[1]。

治療法や診断基準が変わるわけではありません。今回の変更は、この病気が「卵巣だけの病気」ではなく、ホルモン・代謝・心身の健康に関わる全身の病気であることを正しく伝えることが目的です。

―ここでのポイントはー

  • 「多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic ovarian syndrome: PCOS)」は、排卵しづらくなることで不妊症の原因となるだけでなく、ホルモン代謝異常を引き起こし、子宮体がん、肥満や2型糖尿病などのメタボリック症候群、心筋梗塞や脳卒中などの心血管障害、ニキビ、多毛症、睡眠時無呼吸症候群、抑うつ、不安神経症など様々な病気にかかるリスクが上昇します。

  • 現在の診断名では、「多嚢胞」という卵巣の形態だけに焦点が当たっており、診断名だけでは病態がわかりません。そのため、患者さんだけでなく、医療従事者も多嚢胞性卵巣症候群が引き起こすホルモン代謝異常が、命に関わるような内科の病気のリスクとなることや、美容面やメンタルヘルスに悪影響することを認識しづらい状態です。その結果、PCOS女性の心身の健康が損なわれ易い状態にあります。

  • 心身ともに幅広い領域で健康に影響する症候群であるという認識を広め、PCOS女性が早期に適切なケアを受けられるようにするために、病態に合った診断名に変えることになりました[1]。英語での診断名は「Polyendocrine metabolic ovarian syndrome: PMOS」に変更されますが、日本語の正式名称は未定です。直訳すると「多(poly) 内分泌(endocrine) 代謝性(metabolic) 卵巣(ovarian) 症候群(syndrome)」となります

  • 近年の研究では、PCOSが次世代の健康に与える影響についても論じられています。生まれてくる子が男の子でも女の子でも、肥満や2型糖尿病になりやすい可能性が指摘されています。

1. Polyendocrine metabolic ovarian syndrome: PMOS(多内分泌代謝性卵巣症候群)とは

一般の方でも、婦人科以外の診療に従事している医療関係者の方でも、「排卵しにくい病気で、排卵誘発剤を使って妊活するか、ピルを飲んで月経不順をコントロールしておけばよい」という認識を持たれているかもしれません。

この病気では、男性ホルモンの増加やインスリン抵抗性など複数のホルモン異常が起こり、それが排卵だけでなく全身の代謝にも影響します。PMOSによる排卵障害は、不妊症の原因となり、子宮体がんのリスクとなりますので、排卵誘発剤を使って排卵を促したり、ピルで月経をコントロールしたりすることは適切な治療ではあります。 

ですが、それだけではPMOSの治療としては不十分なのです。なぜなら、PMOSは婦人科の病気だけでなく、男性ホルモンやインスリンの異常により、様々な病気を引き起こすからです。

2. PMOSが引き起こす婦人科以外の病気

PMOSでは次のような病気のリスクが高くなります。

  • 肥満

  • 2型糖尿病

  • 脂質異常症

  • 高血圧

  • 心筋梗塞・脳卒中

  • 睡眠時無呼吸症候群

  • ニキビ

  • 多毛

  • 抑うつ

  • 不安症

肥満:インスリンが多くなることで、太りやすくなります。肥満はPMOSを悪化させるだけでなく、メタボリック症候群を引き起こします。肥満を改善させるために、適度な運動をし、食習慣を見直す必要があります。

糖尿病:PMOSでは、BMIに関係なく非PMOSの女性より2型糖尿病になりやすく、より若い年齢で発症しやすいとされます。男性ホルモン過多や、インスリンの効きが悪くなること(インスリン抵抗性)が影響しています。国際ガイドラインでは、PMOS女性ではBMIに関わらず、糖尿病の検査を行うことが推奨されています[2]。

心血管障害(心筋梗塞、脳卒中など):男性ホルモン過多、インスリン抵抗性、PMOSによる慢性炎症状態が関連し、非PMOS女性よりもリスクが高くなることが報告されています。国際ガイドラインでは、PMOS女性ではBMIに関わらず、脂質異常症の検査や血圧測定を行うことが推奨されています。

ニキビ・多毛:男性ホルモン過多により、難治性のニキビや重度の多毛を認める場合があります。思春期や若い女性では、ボディ・イメージの低下など精神的負担が大きいため、ピルや抗男性ホルモン薬の内服、医療脱毛などを行います。

睡眠時無呼吸症候群:肥満の影響も大きいですが、非PMOS女性と同じBMIであっても、PMOS女性の方が発症しやすいです。男性ホルモン過多が気道の反応性や構造の変化を引き起こすほか、慢性炎症状態が関与していると考えられています。睡眠時無呼吸症候群は、疲労感や不眠、日中の眠気を起こして日常生活に支障を来すだけでなく、高血圧や糖尿病とも関連します。自覚症状がある場合は、早期に検査を受けた方が良いでしょう。

抑うつ・不安神経症: ニキビや多毛、肥満などによるボディ・イメージの低下などにより、PMOS女性では、約37%が中等度から重度の抑うつ症状を示し、約42%が不安神経症状を示すと報告されています。アメリカのガイドラインでは、PMOS女性には抑うつのスクリーニング検査を実施することが推奨されています。

3. 診断名変更への道のり

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という診断名では、上記のような様々な病気を引き起こす病気と捉えにくくないでしょうか。

また、「多嚢胞」は、排卵障害を起こしている卵巣が超音波で見えたときの状態のみを指しており、病態を反映していません。なおかつ、中枢性排卵障害などPMOS以外の排卵障害でも、超音波では多嚢胞状に見えます。

実際には「嚢胞」ではなく、発育途中で止まった卵胞が多数並んで見えている状態です。 数年前から、上記の様々な病気を起こすリスクがあることを認識して治療していくことや、長期的な管理を行うためには、「多嚢胞性卵巣症候群」ではない適切な病名をつける必要性が認識されていました。海外の様々な識者の協議を経て、2026年5月12日にLancetが新しい診断名として「Polyendocrine metabolic ovarian syndrome: PMOS(多内分泌代謝性卵巣症候群)」を使用すると発表しました[1]。

生殖医療医はPMOSの患者さんが妊娠したあとは、関わることがなくなります。また、月経不順に対してピルを処方している産婦人科医も、検査で明らかな異常が出るまでは内科への受診を勧めにくくあります。

内科や心療内科、精神科のドクターも既往歴に「多嚢胞性卵巣症候群」と記載されていても、そのリスクを正確に把握できない可能性があります。

Polyendocrine metabolic ovarian syndrome: PMOS(多内分泌代謝性卵巣症候群)」に変更することで、我々医療従事者だけでなく、患者さんも含めてPMOSが様々な病気のリスクとなり、心身の健康に影響を与える病気であると認識できるようになることを願っています。

4. 不妊治療・妊娠への影響

病名が変わっても、診断基準や排卵誘発・人工授精・体外受精などの治療方針は基本的に変わりません。

なお、以前から肥満を伴うPMOSでは、体重の5~10 %を減量することで不妊治療の成績が上がることがわかっています。

また、肥満を伴うPMOSでは、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群を起こしやすいため、ハイリスク妊娠に分類されます。肥満がある方は、妊活中から無理のない範囲で減量を頑張っていただけたらと思います。

当院には栄養士外来もありますので、気軽に食習慣改善のご相談にいらしてください。

5. 次世代への影響

PMOS女性から生まれた女の子は、非PMOS女性から生まれた女の子よりもPMOSになるリスクが上がるという報告があります。

一方で、PMOSの発症には、環境因子が90%以上の影響を与えているという報告もあり、運動不足や食習慣、肥満など様々な環境因子が発症に関わっているのではないかと推測されています。

また、PMOS女性から生まれた男の子では、肥満や2型糖尿病などのリスクが上がるという報告もあります。

PMOSと診断された方が出産された場合、お子さんが小さい頃から運動習慣や適切な食習を身につけられるよう気配りしてあげると良いかもしれませんね。

[1] Teede HJ,et al., Global Name Change Consortium. Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process. Lancet. 2026 Jun 6;407(10545):2329-2339.

[2] Teede HJ, et al., International PCOS Network. Recommendations from the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome†. Hum Reprod. 2023 Sep 5;38(9):1655-1679.
 

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医師 村上 直子 

・医学博士
・日本産科婦人科学会専門医
・日本産科婦人科学会指導医
・日本生殖医学会 生殖医療専門医
・日本がん・生殖医療学会認定 認定がん・生殖医療ナビゲーター
・日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

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